いぬおさんのおもしろ数学実験室

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書籍『複素数とその関数』紹介。どうして複素数が高校の数学から消えたり現れたりする?

 このシリーズ、結構古いのですが分かりやすく書いたものが多く、よく読んでいます。今回は複素関数論の本です。

「序言」には高校数学から複素数が消え、大学での複素関数論の講義に支障をきたしているのでこの本を書いた、とあります。大分前、1980年の本です。理由は知りませんが高校数学には行列も出たり入ったりしていますよね。複素数も、今は複素数平面が入っているけれどぼくたちの世代は高校では勉強していません(もちろん2次方程式虚数解については学んでいます)。

 そういう、言わば高校数学と大学数学がスムーズにつながるよう考えてある本ですから、複素関数論全体をこれで勉強できるわけではありません。なにしろ複素積分については17ページだけ(B6版)です。それでもコーシーの積分定理のf(z)の正則だけを仮定した証明(分かりやすかった)が載っていたりします。また、別のテーマの最初に「f(z)は領域Dで連続と仮定します。領域は必ずしも単連結でなくてもよいし、関数も正則とまではしません。もっとも、単連結領域Dで正則な関数なら十分すぎるくらい結構です」といった説明をしているところがあります。著者が雰囲気を伝えようとしているとでも言えるかも知れません。なお、留数定理くらいまで進むとひと区切りの感じですが、本書では触れていません(級数展開自体、出てこない)。

 目次は以下。

1 複素数
2 複素数とベクトル
3 複素数三角関数
4 1次分数関数
5 指数関数eの
6 複素関数微分
7 複素関数積分

 『ワンポイント双書』ということで、学生が分かりにくい急所を解説するシリーズです。前、このシリーズの『重積分』、『数学での証明法』、『イプシロン・デルタ』も紹介しました。分かりやすいものが多いという印象です。今は大学数学のテキストも分かりやすいものが溢れていますが、昔は少なかったのです。これはそのひとつです。

 

 高校では今は数学Ⅰ、A、Ⅱ、B、Ⅲという科目をやっています。しかし教員は毎年すべての科目を担当するというわけではなく、場合によっては例えば数学Ⅲを5年持っていません、というようなこともあり得ます。そういうとき、ふと気づくと行列とかが教科書からなくなっていたりするんですね。大学の理系に進んで、足りなければそこで勉強すればよいわけですが、まあもちろん高校でもある程度触れておくのは望ましいことでしょう。不思議なんですが、当然「行列をなくして複素数を入れるべきだ!」とか(適当です)議論をして、何かの根拠があって決めているわけですよね。なのにある年に高校で勉強していたものが翌年に消えたりまた入ったり、というのは理解できません。「この科目は大事!」と考えるなら、入れたままにすればいいのに……。どんな議論をしているとか、ぼく自身はその類いの話にはあまり興味がないので、ことによると何か勘違いしているかも知れませんが。