いぬおさんのおもしろ数学実験室

おいしい紅茶でも飲みながら数学、物理、工学、プログラミング、そして読書を楽しみましょう

「ベクトルa、bの内積」を「aの転置行列とbの積」で計算してよいのか?

 ベクトルの転置(転置行列。ベクトルも行列の一種です)は次のように定義されます。成分は3個にしましたが、何個でも同様です。

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さて、今ベクトル a, b, c が次のようであるとしましょう。

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このとき

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を次の2通りの方法で計算してみましょう。

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どちらも結果は同じ。しかし、2つ目は? こういう計算をしてよいのでしょうか。kを実数、aをベクトルとして、ka はベクトルの実数倍として定義されていますが、そもそも ak の定義はありません。

 そう言えば、工学の本などで、ベクトル a, b(どちらも1行3列) の内積

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と書いたりするのです。要するに内積を行列の積として計算しています。これ、よいのでしょうか? 「内積はベクトルではない。スカラーなのだ」と強調されることがあります。この計算は行列の積を計算しているのだから結果は行列。(1行2列)×(2行1列)=(1行1列)の行列なんですね。これは「スカラー」ではありません。だから、そういう意味ではやってはいけない計算(行列の積で内積を求める)です。しかし、今まで「スカラー」と思っていたものは実は1行1列の行列なのだ、と考えればよいだけのことですよね。最初の問題も、右から39をかけるのはダメだけれど(39は行列ではないから)、1行1列の行列、[39]だと思えば解決です。つまり

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という計算をやっているのだ、と思えばよいのです。行列のかけ算、ABでは、Aの列の数とBの行の数が等しくなければなりません。しかし上の計算ではちゃんと一致しています。(2行1列)×(1行1列)です。こうしたことが分かっているなら、「・39」と書いてしまってもよいかも知れません。何も考えずに計算していてはまずいと思いますが。