いぬおさんのおもしろ数学実験室

おいしい紅茶でも飲みながら数学、物理、工学、プログラミング、そして読書を楽しみましょう

相関係数の授業ではこの話をしてください。実習生も!!

 高校1年生はそろそろ相関係数の話が出てくる頃かも知れません。相関係数については以前、こんな記事を書きました。 

www.omoshiro-suugaku.com

相関係数とは……データから、とある方法で作った2本のベクトルのなす角をθとしたときの cos θ のことなのでした。具体例で見てみましょう。

f:id:Inuosann:20210115184928p:plain

相関係数を調べましょう。定義通りにやってもいいですが、先の記事の方法で。

f:id:Inuosann:20210115185819p:plain

これより2本の空間ベクトルを作ります。

f:id:Inuosann:20210115190229p:plain

内積と、それぞれの長さを計算すると

f:id:Inuosann:20210115195849p:plain

このとき、2本のベクトルのなす角をθとすると内積の定義より

f:id:Inuosann:20210115190437p:plain

であることが分かります。これが相関係数なのでした!!

 数学Ⅰの教科書の定義では、上の式(cos θ =……)の分子分母をそれぞれデータ数で割ったものが相関係数、ということになっています。そのままでは直観的な意味が分かりませんが、上のように書き直せばはっきりします。相関係数とは、こうして計算される cos θ のことなのです。「数学の点が高い生徒は生物の点も高い傾向にある」というのは、2本のベクトルのなす角が小さいこと、と言ってよいでしょう。長さは関係ありません。そもそも異なる科目であって、標準偏差だって異なります。長さ、それ自体は単純に比較しても意味がないのです。

  なお、生徒が4人になると4次元の空間が、5人になると5次元の空間が必要になります。5次元空間(5次元ユークリッド空間)の中で「ベクトルのなす角」と言うと「直観的」とは言いにくいかも知れませんが、類推は容易にできますよね。

 どっち道、1年生にベクトルを使った計算の話はできません。でも簡単にベクトルの説明をしてやって「2本のベクトルの間の角が小さければ、数学の点が高ければ生物も高い傾向がある、と言えるでしょ?」くらいなら解説できるはずです。あるいは、既に相関係数を勉強済みの2年生には、ベクトルのなす角の計算のところでこの話をすることもできます。このとき、-1 ≦ cos θ ≦1 なのだから当然相関係数は -1 ≦ r ≦1 なのだ、と教えれば「おー、なるほど!!」と声が上がるかも知れません。

 今、教員養成で有名な学校の教育学部では熱心に授業の練習をさせているみたいです(はっきりしたデータがあるわけではなく、実習生から聞いた話ですが)。それはそれでいいと思うんですが、「分かりやすい」とか「生徒が積極的」とか、そんなことばかりのためにウロウロしているのでは仕方ないでしょう。違っているかも知れませんが、そういう授業の練習しかしていない教育実習生は、今回の記事みたいな話はできないんじゃないかな……。

 管理職の先生たちも、「生徒が積極的だ!」とか表面だけの薄っぺらな評価ばかりして喜んでいないで、中身をきちんと判断してください……。