いぬおさんのおもしろ数学実験室

おいしい紅茶でも飲みながら数学、物理、工学、プログラミング、そして読書を楽しみましょう

高校生の皆さん、こうして勉強してください!

 マジックが趣味です。ずいぶん前ですが、職場にマジック好きの人がいて、一時期は一緒に研修会を月に1,2回くらいやっていました。空前のマジックブームとも重なり、番組の内容について話したり、新しいマジックやDVDなど情報のやりとりをしたり、練習したテクニックやマジックをお互いに見せて批評し合ったり、ずいぶんがんばっていたなあ、という感じです。とにかく面白かったんですね。こういうときって、多分一番実力がついているときです。数学でも何でも同じです。まずは面白い何かを見つけることです。

 マジックは、タネ(テクニックを含め、原理、手順)を知るともうそれで自分もできるような錯覚に陥ることも多いかも知れません。でも実際には(適当ですが)タネ5%、練習95%。手順を憶えてからが勝負です。セリフも含めて飽きるほど練習して、飽きても練習して、それでやっと本番でちゃんとした演技ができるのです。この辺は何だって同じです。昔の人ですが、カードマジックの名手と言われたプロマジシャン、ポール・ルポールは「テクニックは息をするくらい自然に使えるようになるまで練習しなければならない」と言っています。トランプひと組で食っていた彼が言っているのです。「厳しいなあ」と思いましたが、これが真実なんでしょう。棋士が将棋を一般の会社の仕事に例えたり、数学者がピアノを弾いていて「これが数学に役立った」とか言ったり、ぼくはこの類いの話はあまり信じません。何だってどこかしら共通点みたいなものはあるはずで、到底参考にはなりそうもないことだってあるからです。早い話、「そういう話は無茶でしょ」と思うのです。それでも、ポール・ルポールの言葉は勉強にも通じます。基本的なことをきちんと頭に入れ、考えるトレーニングを繰り返すのです。

 2点、抽象的ですが勉強の仕方を書きました。でも、ぼくは高校生は勉強の仕方、使う本なんか、自分で見つけて欲しい……と思っています。ぼくが説明する通り集中して毎日3時間ずつ、2、3週間も練習すれば、例えば「観客が選んだカードをトランプひと組に混ぜて切り、13枚目から取り出す」といったマジックを、生徒も演じることができるようになります。しかしぼくは、カードだけでなくコインやその他いろいろより道はしたにせよ、ここまでたどり着くのに何年もかかっているのです。さすがに「うーん……」という感じですが、それでもこういうやり方もアリだと思います。たくさんのムダはしたけれど、だからこそ今となってはどこがムダだったのか、どうしたら効率的な練習になるのか、手に取るように分かりますし、信頼できる本、著者、サイト、メーカー、……も失敗談を含めて実感を込めて話せるからです。考えようによってはこれが本当の勉強なのであって、誰かに「こうせよ、ああせよ」と一から十まで指示されて何も考えず言われるままに勉強して身につくことなど、たかが知れているのかも知れません。今の学校はこういう方向に動いてしまっています。何もかも自分で考えて、なんていうのは土台無理な話。でも、せめてそういう気持ちだけでももって勉強して欲しいと思います。
 生徒は「コツが分かりません」なんて言います。そんな調子のいいもの、ないよ……。コツというのは「さんざん勉強して、ようやく頭にその1/100だけ『こんな感じにやるのかな』と何となく残るもの」なのであって、他人に簡単に教えてもらえる知識ではないのです。逆説的ですが、「無駄をせよ、それが一番の近道」ということになるかも知れません。