いぬおさんのおもしろ数学実験室

おいしい紅茶でも飲みながら数学、物理、工学、プログラミング、そして読書を楽しみましょう

掛谷の問題を紹介します

 定幅図形(ていふくずけい)というのがあります。平行な2直線で挟むと、常に2直線の間隔が一定になる図形です。円はもちろん定幅図形、その他で分かりやすいのは「ルーローの3角形」と呼ばれるものです。図の△ABCは正3角形です。Aを中心に半径rで弧BCを描き、同じ半径でCを中心に弧ABを描き、Bを中心に弧CAを描けばルーローの3角形のできあがりです。

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描き方から、平行な2直線でこの図形を挟めば間隔は常にrであることがわかります。実際、この図形を目をつぶって両手に挟んで転がしてみると確かに円盤を手の間で回しているような感じがします(生徒にやらせています)。マンホールの蓋に四角形は使えません。斜めにすると落ちて、大変危険だからです! しかし円でなくても定幅図形であれば、例えばこのルーローの3角形なら落ちません。同じように正5角形や正7角形などの正奇数角形からルーローの5角形、7角形を作れます(まとめて「ルーローの多角形」)。他の定幅図形もあります。
 ぼくは高校生のとき、故・矢野健太郎微分幾何学者)のエッセイで知りました。そのエッセイの中で、定幅図形に関連した話題として掛谷(かけや)の問題も紹介されていました。これは数学者、掛谷宗一氏が提出した問題です。「平面内で、長さ1の線分を1回転させるのに必要な図形のうち面積が最小のものを求めよ」というものです。上のルーローの3角形で、r=1とすれば図形上で1回転させられますよね。また線分のちょうど真ん中を中心にして、半径1/2の円を描けばもちろんその中で回せます。この場合面積はπ/4です。実はなんと、「いくらでも小さい面積の図形の中で1回転させることができる」ということが分かっています。例えば面積0.0000000001の図形の中で長さ1の線分を1回転させられるわけです。「ペロンの木」という操作を用いて証明できるそう。狭い場所で、車を何度も切り返して向きを変えるときの動きに近いです。次の問題として、「定幅図形に限るとどうか?」というのがあるそうです。面白そうだし、もっとよく知っていればいろいろ書けるとろこですが、勉強不足なので紹介にとどめます。

 エッセイには、掛谷先生は「昔の武士はいつ襲われてもいいように、厠(かわや)にも刀を持ち込んでいた。狭い部屋で刀を振り回さなければならない。そこからこの問題を思いついた」というようなことを言っていた、とありました。こういう話、知っている人がどんどん減っていきそうです。先生たちは生徒に教えてあげて下さい!!