いぬおさんのおもしろ数学実験室

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背理法の証明でこれをやってはいけません(2)

 前、同じテーマで書きました。 

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 今回は実際の問題と解答の間違いを取り上げましょう。ある問題集に載っていました。「mn(積)が奇数ならばm,nは奇数であることを示せ」という問題です。背理法で証明します。これ自体は特に難しくはありません。正しい答えは次の通りです。

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 積mnが奇数であるのに、m、nの少なくとも一方が偶数だと仮定します。このときm、nの積mnは(m、nに偶数が混ざっているので)偶数になります。これは矛盾です。よってmnが奇数ならばm、nはともに奇数です。

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 これが、問題集の答えでは次のように始まっていました。

mnが奇数ならば、m,nの少なくとも一方が偶数であるとすると………

「同じようなもんでしょ」と思う人もいるのかな……。いやー、でもこれはまずいでしょう。そもそも背理法とは、「pならばq」を示すために「pかつ¬q」を仮定して矛盾を導く証明法です(都合で否定の記号に¬を使いました)。「pならば¬q」を仮定しても仕方ありません。念押しすると、pかつ¬qを仮定して矛盾が導ければ「ああ、pと¬qは両立しないんだ。じゃあpが成立するときにはqも成立だ」ということなのです。

 出版社に問い合わせたら返事がすぐ来ました。ことによると「『mnが奇数ならば』は『mnが奇数のとき』の意味なのだ」と言われるかなとも思っていました。「日本語の問題」ってことで、確かにそういう見方もできるかもしれませんし、答えを書いた人はそのつもりなのかも知れません。しかし授業で背理法を教えるときにこういう証明はあり得ません。もし生徒がこう書いていたらぼくは「絶対ダメ」と注意します。
 返事では「増刷や改訂のときに,修正を検討したいと存じます」とのことでした。年度がわりなんかにまた見てみます。