「ニュートンはリンゴの落ちるのを見て万有引力の法則を思いついた」ということになっています。しかし、きっかけにはなったのかも知れませんが、リンゴを見たってあの数式が出てくるはずがありませんよね。実際にはケプラーの法則から導いたのです。これ自体は条件をある程度限定しておけば高校の物理レベルの問題です。ケプラーの法則というのは太陽系の惑星の運動に関する法則です。 www.omoshiro-suugaku.com
矢野健太郎先生は著書の中で、恩師である遠山啓(ひらく)先生が「私はこう思う」とおっしゃっていた、と書いています。「真実はこれに近いと思う」とも書いていました。紹介しましょう。
ニュートンは晩年にはナイトの称号を授与されるなど、地位はかなり高かったのだそうです。パーティなどに出席して貴婦人たちと会話する機会もあったことでしょう。貴婦人たちは「ニュートン先生はどうやって万有引力の法則を発見なさったのですか」と聞きます。最初ニュートンはケプラーの法則からああしてこうして……と説明していたのですが、すぐに「こういう話題はパーティには向かない」と気づきます。そこで「リンゴの落ちるのを見て発見したのです」と答えるようになったのです。
なるほど……。説得力があります。
ふたつ目。このブログでも何回も触れている、フーリエ級数というのがあります。1800年代の初め頃フーリエという学者が考え出しました。(条件は必要ですが)「周期を持つ関数は三角関数の無限個の和で書ける」という、想像を絶する主張です。しかし彼の議論は雑で、数学者たちは頭を抱えていたのだそうです。議論が雑なのも無理のないことで、当時はまだその辺を厳密に考えるための数学的概念や道具が揃っていなかったのです。その後、何十年もかかってやっと厳密に証明されました。「天才的な人がこういう素晴らしいアイディアを出し、後の人たちがそれが正しいかどうか検討するのだ」なんて聞いたことがあります。いやいや、とんでもないことです。勉強してみると厳密化にはやはり天才たちが莫大な知力、エネルギーを注いでいることが分かります。
こんなのも数学の味わい方です。数学だって物理だって人間が作ったものです。その過程にはいろいろなドラマがあります。せっかく数学や物理を勉強するならそういった話もいっしょに読めばいいと思います。