いぬおさんのおもしろ数学実験室

おいしい紅茶でも飲みながら数学、物理、工学、プログラミング、そして読書を楽しみましょう

高木貞治、ヒルベルト、フォン・ノイマン

 高木貞治(ていじ)(1875~1960)は数学者、専門は代数学です。当時、微分学の定理であるにもかかわらず、それまでは積分学を用いて証明されていた定理がありました。高木先生はこれをよくないと考えたんでしょう、微分学の知識のみで証明することを試み、成功したそうです。これは数学の論文なのですが、その最後に高木先生はこう書いたそうです。「昔から言うではありませんか、ビブンのことはビブンでせよ、と」。
 これは矢野健太郎先生のエッセイで読んだ話ですが、矢野先生は他にもたくさん書いています。もうひとつ紹介しましょう。東大数学科では伝統的に試験は時間無制限なのだそうです。ある試験で、学生が難問を相手に頭を抱えているとき、監督の先生が「ぼくはもうお腹が空いたので家に帰るけど、終わったらここに出しておいてください」と言って出て行ったそうです。矢野先生は「私はこれは全く正しいことだと思う。早く解けたから優秀、ということではないからである」といったことを書いています。もちろん同じ問題なら短い時間で解けた方がいいとは思うけれど、言わんとしていることは分かります。しかしさすがに今はこんなおおらかな感じではないのかも知れません……。
 ダフィット・ヒルベルト(1862~1943)はドイツの数学者です。これは大学で数学の先生が話してくれたことです。ヒルベルトはゼミなどでは一番理解が遅かったのだそうです。しかし彼は多分10本の指に入るくらいの大数学者のはずです。ヒルベルトは数学を雄大に、根本的に考えた人で、例えば証明論という分野の創始者です。さっきの矢野先生の台詞はこういうことを言っているのでしょう。
 ちなみに、すさまじい切れの数学者だと、フォン・ノイマン(1903~1957)がいました。彼を「稲妻のような鋭い理解力」と表現しているのを読んだことがあります。「悪魔のように賢かった」とか「いや、本当に悪魔だった」というのもあります。うらやましい……。「数学者ゲーデルの(不完全性定理に関する)講演を聴き、その重要性を一瞬で理解し……」というのも。

 数学者についてのいろんなエピソード、放っておくとどんどん忘れ去られてしまいそうです。面白い話がたくさんあります。なるべく残さないと……。