教員はなかなか他の教員の授業を見る機会はありません。学校によっては「教育実習の期間中、教員同士も授業を見せ合いましょう」と声をかけているところもありましたが、実際には誰もほとんどやっていなかったような……。ぼくも何回かだけで、今にして思えばもっと見ておけばよかったかな、という気もします。「授業を見せてください」と言われれば見せますが、何かの機会の公開授業みたいなのとは違いますから、進度によっては見せ場でないことがあります。要するに、単元によっては「自分はここでこう工夫している」とアピールしにくいものもあるのです。計算の練習ばっかりのときとか。それに見られていれば雑談もしづらくなるし……。そうすると、他の先生もそういう感覚なのかも、と思って見に行くのを遠慮している部分もあるかも知れません。
実習生や他の教員の授業を見ていていつも感じることがあります。どこに力を入れるか、が本当に全然違うんですね。ぼくは教育的なウソをつくことはありますが、そのときには「今、×××と説明しましたが、厳密には○○○です」とか「高校ではこんな感じに説明してしまいますが、大学に行くと○○○です」とか必ずつけ加えます。でもそういうことを全く気にしていない人もいます。要するにウソをつきっぱなし。でもそれでクラスの平均点が下がるか、というとそんなこともまあありません(平均がよければよい、ということではもちろんないですが)。生徒によっては教員が「厳密には……」と言い始めると「厳密でなくていいから!」と思うそう。数学を苦手にしているならそうなるのも自然です。要するに、一概にどっちがいい、ということでもないのかも知れません。ぼくはちゃんと話したいからそうしますが。他にも、説明は雑なところがあるけれど指示の出し方がうまかったり、新しい単元の導入だけ見ても面白いものやピント外れのもの、数学的に明らかに「その説明はまずいだろ」と思うこと、……もういろいろです。プライドもあるだろうから、年上の先生にはあまり言いません。
相手が実習生なら、ひと言でも怪しげな事を言ったらあとで確認したり注意したりします。例えば
では意味が違います。日常語では雑でよい話し方も数学ではまずいことがあります。簡単な例では「5以上」と「5より大きい」は数学では厳格に使い分けます。また、指数のところで負の整数乗や有理数乗が出てきたとき、ぼくは「本来はナンセンスだが、できるだけ合理的に約束します」みたいな説明をします。もとの計算からすると2のマイナス3乗、なんておかしいでしょ? マイナス3回、かけるのでしょうか……ということです。でも実習生は「マイナス乗も有理数乗も当たり前」と思っているようです。「当たり前だと思っていた」と言っている教員もいたくらいだから納得です。でもぼくは「本来はナンセンス」くらい生徒に話して欲しいと思っています(念のため、「本来の意味からすると」なのであって、数学ではきちんと定義しますから負の整数乗にも有理数乗にも問題はありません……)。
話は少しそれますが、生徒は「教育実習中は先生は授業しないから楽」と思っているみたいです。とんでもない!! 実習生の授業1時間に対し、前日に1時間、授業の後に反省会を1時間くらいはしなければならず、メチャクチャ大変なのです。まあ「自由にやってください」とか言っておけば楽にはなるけれど。ヘンな導入を考えてきたら注意するし、説明させてあやふやな感じならツッコミを入れるし、授業でしゃべったおかしな事(結構あります)、説明すべきなのに説明しなかったこと、数学的にまずい表現、……。実は自分を見直す機会にもなります。
ここのところ、コロナで他の先生の授業を見る機会も増えました。それで、たまにはいいか……とこういう記事を書きました! 世間の人たちには「教員はのん気に授業しているだけではない」と知っていただきたい気はします。