『線形代数セミナー-射影,特異値分解,一般逆行列-』(金谷健一2018共立出版)の紹介です。これは凄い本です。工学などへの応用で出てくる行列は対称行列が多いそうです。この対称行列の固有値分解、特異値分解、一般逆行列などについて大変分かりやすい説明がされています。150ページとコンパクトですが、内容は極めて濃く、幾何学的なイメージも得られます。大学1年で勉強する線形代数の知識がある程度(例えば数ヶ月分の内容くらい)あれば読めますし、特に固有値分解や特異値分解に関する大変優れた立体像が頭の中にできあがると思います。個人的には今まで読んできた数学の本の中で5本の指に入る、素晴らしいものだったと言えます。
ぼくはこの本を、写真数枚から元の立体を再現する(いわゆる「コンピュータビジョン」)ための線形代数の知識をまとめる目的で勉強しました。金谷先生も指摘していますが、純粋な数学の本はもちろんそれはそれでなくてはならないものですが、物理や工学で応用するために勉強する、といったケースには一般的すぎ、詳しすぎであまり向いていないことも多いです。ギリギリのポイントを使える形で分かりやすくまとめてある本が欲しいことがあるのです。
金谷先生の他の本では、『これなら分かる応用数学教室―最小二乗法からウェーブレットまで-』(金谷健一2006共立出版)も凄かったです。こちらは行列の分解については『線形代数セミナー』よりも具体例が多く載っています。フーリエ変換についても大変分かりやすい説明があり、強力にお勧めしたいです。ぼくはこの本を読み、フーリエ変換を用いて実際にイコライザを作ったことがあります。それほど実用的だということです。

これなら分かる応用数学教室―最小二乗法からウェーブレットまで
- 作者: 金谷健一
- 出版社/メーカー: 共立出版
- 発売日: 2003/06/01
- メディア: 単行本
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いまどきはあちこちに優れたライブラリがあり、理屈は分かっていなくても特異値分解などアッと言う間です。でも自分自身それでは面白くないですし、例えばアルゴリズムの工夫などはできないでしょう。また、解が2つ以上出てきたときの解釈など、困ることもあるでしょう。何もかも……というと厳しいですが、理屈を勉強するのは大事だと思います。