いぬおさんのおもしろ数学実験室

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ドレイクの式。銀河系には知的な生命体の住む惑星が何個あるか。

 ドレイクの式というのを紹介しましょう。これを使うと、この銀河系に知的な生命体が住む惑星が何個あるか、計算できます。いわゆる「宇宙人」のいる星が何個あるか、を求められるのです。「誰がなんと言おうと宇宙人は絶対にいる!」「そんなの、いるわけない!」ではなく、冷静に、科学的に考えましょう。念のため、銀河系というのは我々が住む太陽系(太陽、水星、金星、地球、……、海王星)を含む、たくさんの星からなるグループです。銀河系の直径は10万光年、つまり端から端まで光の速さで10万年かかります。
 銀河系には恒星(自分で光っている星。太陽は恒星のひとつ)がたくさんありますが、恒星はこの銀河系内で毎年何個かずつ生まれ、何個かづつ消えていきます。1年間に生まれる恒星の数(N*)を40個だと仮定しましょう(こんな数値、どうやって調べるのか? 銀河系で毎年恒星は何個ずつ生まれているのか - いぬおさんのおもしろ数学実験室 で書きました。この40個の恒星たちのうち、惑星を持つものの割合(fp)を0.33としましょう。惑星というのは恒星の周りを回っている星のこと。例えば太陽という恒星の周りを地球、水星、火星などの惑星が回っています。fp=0.33とすると40×0.33=13.2個の恒星が惑星を持つことになります。このような惑星を持つ恒星がそれぞれ何個ずつ生命の存在を許す惑星を持つか、その平均的な数(ne)を2としてみましょう(太陽の場合2個です。地球と、せいぜい火星。水星みたいに太陽に近すぎて到底生命が存在できない惑星もある)。13.2×2=26.4なので、恒星40個は合計で26.4個の生命の存在を許す惑星を持つことになります。さて、これら26.4個の惑星には実際に生命が発生するかも知れないし、しないかも知れません。発生にはいろんな条件が必要だからです。そこで、こういう惑星に生命が発生する確率(fl、エフエル)を0.33としましょう。とにかく生命であればいいなら、結構高い確率で発生しそうな気はします。26.4×0.33=8.712なので、40個の恒星が持つ惑星のうち、8.712個の惑星に生命が発生するということになりますね。しかし生命が発生したからといって、それが知的な生命にまで進化する保証はありません。進化の途中で氷河期なんかで絶滅するかも知れないし、バクテリアくらいまでで進化が止まってしまうかも知れないのです。そこで、生命が発生した惑星で、その生命が知的な生命に進化する確率(fi)を0.01としてみましょう。8.712×0.01=0.08712なので、0.08712個の惑星が知的な生命体を持つことになります。さらに、こういう生命体が他の星に対して通信を行えるほどの文明を持つようになる確率(fc)を0.01と見積もってみます。すると、0.08712×0.01=0.0008712個の惑星が通信できる生命体を持つことになります。このような通信の技術を持つ文明の寿命(L)はどの程度でしょうか? 地球を例にとります。地球は無線通信できるようになってわずかに130年かそこら。この先、大きな戦争なんかが起こるかも知れません。短めに見積もってみましょう。L=300年とします。さっきまでの話では、毎年0.0008712個の、通信を行える文明を持つに至る惑星が生まれるのでした。通信できる文明の寿命が300年なら、過去300年間に生まれた惑星は今、生き残っているわけで、それは0.0008712×300=0.26136個です。
 おおっ、結論が出ました!! 今、銀河系には0.26136個、通信できる文明を持つ惑星が存在するということになりました。まあ、0.26136個ある、ってのはどちらかと言うと「存在しない」に近いわけですが……。でも地球のような惑星が300年で消える(L=300)、というのは悲観的すぎるかも知れません。これが1000年なら0.8712個、10000年なら8.712個。これなら知的な生命体はちゃんと存在しそうですね。
 まとめましょう。N=N*×fp×ne×fl×fi×fc×Lを「ドレイクの式」といいます(ドレイクは考案者の名前)。添え字は、*はstar(星)、pはplanet(惑星)、eはenvironment(環境)、lはlife(生命)、iはintelligence(知性)、cはcommunication(通信)の意味でしょう。それぞれの値を見積もってかけ算すれば、銀河系に現在何個の地球並みの星が存在するか、計算できるのです。
 何十年も前ですが、カールセーガンという学者はN*=40,fp=0.33,ne=2,fl=0.33,fi=0.01,fc=0.01,L=100と見積もりました。L=100なら地球はもう滅亡ですね……。彼は0.08712個の知的な生命がいる惑星が存在する、と計算したのです。見積もり方にはいろんな意見があり、確かな結果はもちろん出てはいません。しかしそれは今はどうでもよいのです。大事なのは「宇宙人がいるかいないか、考えたってわかりっこない」とか「宇宙人なんかいないに決まってる」とかは単に非科学的なだけなのだ、ということです。ギリギリまで理詰めで考えること。そして「ここまでは分かっている、ここから先は分かっていない」という限界をきちんと把握していること。科学的とはそういう姿勢を言うのであって、原子量や物理の公式を暗記していることではありません。

 ぼくはこの話をTV番組『コスモス』(監修カールセーガン)で知り、『宇宙人はいるだろうか 地球外文明の可能性』(水谷仁1986岩波ジュニア新書)で詳しく読みました。面白い話があるもんだなあ、と感心したのを覚えています。

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