いぬおさんのおもしろ数学実験室

おいしい紅茶でも飲みながら数学、物理、工学、プログラミング、そして読書を楽しみましょう

光速度の測定実験

 光速度はおよそ30万km/秒、今では中学生でも知っています。「光は1秒間で地球を7回り半する」というやつですね。古くはガリレオが弟子と離れた丘の上でランタンの灯を点滅させて測ろうとしたそうです。現代のぼくたちから見ると「お粗末な方法!」ということになってしまいそうです。しかしそもそも当時誰も光速度を測ろうなどとは考えなかったわけですし、測ろうとしたことだけでも賞賛に値するでしょう。その後1676年、レーマーが木星の衛星イオの食(しょく。満ち欠け)の周期が(地球の)季節が違うと22分ずれることから計算によって光速度=2.14×108m/秒という有限の値を初めて求めました。現在知られている値は2.99792458×108m/秒(≒30万km/秒)ですから、かなり違っています。しかしそれでも光速度が有限であることがはっきりしたわけです。1725年にはブラッドリーが光行差(こうこうさ)という現象(光速が有限であるため、観測者が運動していると光源の位置が実際とは違って見える)を利用して3.1×108m/秒という値を得ています。
 ここでは1800年代のフィゾーの実験を紹介しましょう。彼は720枚の歯を持つ歯車を利用しました。図を参照してください。

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歯車の手前に光源を置き、歯車を回転させます。光源から出た光は歯車の歯の隙間を通ってL=8633m先の鏡で反射して戻ってきます。歯車の回転がゆっくりのうちは次の歯が来る前に光が戻ってきてまた同じ隙間を逆向きに通るのですが、だんだん速くしてゆくといずれ、戻ってきた光が次の歯に邪魔されて見えなくなるようになります。光が最初に歯車の歯の間通過してから、(鏡まで行って帰って)距離2Lだけ進む間に歯が1枚分回った、ということです。このとき、彼の実験では歯車の回転数は12.1回/秒でした。これだけのことから光速度が分かります。
 n回/秒で回っている歯車を考えましょう。720枚の歯ということは、へこんでいる部分も合わせれば凹凸が720×2個あります。歯車は1秒間でn回転だから、1秒間に光源の前を通過する凹や凸は720×2×n個。従って凹や凸ひとつ分が光源の前を通過するのに要する時間は1秒をこの個数で割って

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光速度=3.1×108m/秒を得ます。

 フィゾーは、歯車にロープを巻いて重りをつないで回したのだそうです。今ではもちろんこんな方法ではなく、電磁気学の知識を用いたもっと精度のよい測定方法を使いますが、肝心なのはそこではありません。スピリット、「何としても測る!」という気持ちなのです。相手は想像を絶する速さの光なのに、使ったのは歯車とロープ! すごいなあ……。