いぬおさんのおもしろ数学実験室

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書籍『棋士とAIはどう戦ってきたか~人間vs.人工知能の激闘の歴史』紹介

 新学期が始まりました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。

 2017年の本で、買って読まずにそのままだったのを通勤電車で読み始め、2日で読み終わりました。大変面白かったです。

読むと将棋ソフトの歴史が分かります。2017年以降のソフトの発展についてはもちろん書いてありませんが、素晴らしい内容です。

 数十年前、70年代の頃、将棋ソフトはまだまるっきり弱く、どうにもなりませんでした。しかしやがて強くなり、ブレイクスルーもあって今ではもうプロ棋士も勝てません。……と単純に「勝てません」と書きましたが、「その根拠は?」と聞かれると困る人が多いでしょう。この本には、人間(プロ棋士)の勝ち目についてのプロ棋士のコメントがいくつか載っており、間違いなさそうです。どんどん強くなるAIを相手に棋士たちがどう対応してきたのか、その苦労が分かります。

 人間vsコンピュータの大会、電王戦についても詳しく載っています。これは団体戦で、4回開催されました。4回目、FINALは2015年です。特に、その中のある対局で、棋士がソフトに2八角を打たせるように誘導し、そうするとその後その駒を人間が取ることができるというソフトの不具合を利用し、結果棋士が勝ったという話が20ページ近くに渡って書いてあります。賛否両論だったようです。ぼくは……勝負ですから勝つのが大事、それで棋士が真実「オレはコンピュータに勝った。オレは強い!」と思えるならそれでよいと思いますが……。人間同士の戦いなら迷わせて勝つとか、奇襲して勝つとか、要するに盤上の技術だけでない作戦があればそれでドラマになるんだけれど。

 その他、筆者の経験、勉強に基づく豊富な知識を元に書かれており、棋士の人間的な部分などについても詳しいです。将棋ファンでもあり、面白くて一気に読んでしまいました。

 

 プロ棋士ですから当然将棋が強く、彼らはそれを仕事にしている。勝負の世界です。強いか弱いか、が最も大事です。強いことが誇りだったでしょう。そこへいきなり圧倒的な強さのAIが入り込んできました。どういう気持ちだったんだろうか、と思います。これが例えば芸術などならまた違う気がするのです。ショパンラフマニノフ、どっちが優れているか、という議論は意味ないでしょう。しかし将棋は勝負事です。この辺、棋士たちがどう考えているのか、直接には棋士の言葉などは載っていません。しかし絶望感とか、あったんじゃないかな……。想像ですが。絵をきれいに描くAIなども出てきました。自分の仕事の領域はいつまでもそういう心配はない、なんて考えはもう通用しません。そんなことも考えさせてくれる本でした。