いぬおさんのおもしろ数学実験室

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水素原子から出てくる光の波長、バルマー系列

 1884年、スイスの物理学者、バルマーは水素ガスを温めたときに出てくる光の波長を測定して、不思議なことに気づきました。それこそ様々な波長の光が混ざっていそうなもんですが、656.3nm, 486.1nm, 434.1nm,410.2nm, 397.0nm, ………に限られていたのです。「nm」は「ナノメートル」で、1nm=0.000000001m(10億分の1メートル)です。397.0nmの次に何が続くか、推定できますか? いろいろやっていれば何か分かるかも知れません。バルマーは各波長の逆数をとり、比を考えてみました。つまり

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という比を考えたのです。彼はこの比が

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に等しい、と気づきました。きれいな式です。これは……さすがに偶然ではないでしょう。バルマーも「なぜこんな式が……?」と思ったに違いありません。しかし、この式が成立する理由がハッキリしたのはなんと20年以上経ってからのことでした。
 水素原子は電子を1個だけ持ちます。電子の取れるエネルギーの値はとびとびで、一番エネルギーの小さい状態(n=1)、次に大きい状態(n=2)、……でそれぞれ値が決まっています。n=3からn=2の状態に落ちるとき656.3nmの光を出し、n=4からn=2の状態に落ちるとき486.1nmの光を出し、……という仕掛けだったのです。ドイツのボーアが今「ボーアの量子条件」と呼ばれている式が成立することを主張し、バルマーの実験結果をきれいに説明したのでした。これ、高校の時に物理Ⅱの授業で習いました。今は教えてるのかな……? 大学で物理に進むと勉強することになる、量子力学の始まりです。
 ぼくは入試で物理学科は落ちたんですが、受かっていたら物理に進むか数学に進むか、迷ったと思います。物理にはこんなすごい実験がまだたくさんあります。ミリカンの電子の質量の測定、フィゾーの光速度の測定、……。たいした実験装置も理論もない時代です(フィゾーの実験なんて、使っているのは歯車とかロープです……。前書いたけど、なにをどうしたら光速度なんて測れるのか、想像できますか?)。あるのは「なんとか電子の質量を測るんだ!」というスピリットだけ。やっぱり物理もいいものです。

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