数学の中に350年間正しいかどうか不明だった予想があります。「n≧3のとき を満たす自然数の組x,y,zは存在しない」というものです。弁護士でアマチュア数学者だったフランスのフェルマーがディオファントスのテキスト『算術』の余白に「この定理に関して、私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる」と書き残しました。今では、フェルマーの勘違いだったことはほぼ間違いない、ということになっているようですが、状況が状況なのでプロアマ問わずたくさんの人間の興味を引いたのです。しかしだれも証明できませんでした。ようやくワイルズが証明したのは1995年のことです。しかし少し経って誤り(ギャップ)が発見されます。彼は教え子のテイラーの協力も得ながら、1年ほどかかって正しい証明を発表します。ワイルズの苦悩がリアルに書かれていて、ここが一番盛り上がるところです。圧巻です。この本はかなりのページをワイルズの苦闘に割いています。数式はあまり出てきません。数学の用語は出てきますが、一般向けの読み物ですから「読めないかも」といった心配は要りません。著者のサイモン・シンはこういった科学的な話を丁寧に、面白く書くのが上手です。
- 作者:サイモン シン
- 発売日: 2006/05/30
- メディア: 文庫
別の本(野崎昭弘先生かな?)で読んだ話ですが、大学の試験で「私は真に驚くべき証明を見つけたが、この答案用紙はそれを書くには狭すぎる」と書いた学生がいたとか。アハハ……。センスある!