リシャールのパラドックスというのを紹介しましょう。パラドックスとは、正しそうな仮定、正しそうな理屈なのに出てくる結果がおかしい、そんな議論のことです。自然数xに関する条件は無数にありますが、それを残らず考えます。条件には1番から順に番号をつけましょう。例えば、
1番:xは方程式x+2=16の解である
2番:xは素数である
3番:x>8
4番:xは6桁の数で、10の位の数字は5である
………
のように。2番の条件を満たすのは2,3,5などの自然数です。3番を満たす自然数は9,10,11,……です。2番の条件は「xは素数である」ですから、条件の番号である自然数2はこの条件を満たします(2は素数です)。自然数3は8以下ですから、3番の条件を満たしません。自然数4はひと桁ですから、4番の条件を満たしません。この自然数3や4のように、その番号の条件を番号の自然数が満たさないとき、その自然数はリシャール数である、と言うことにします。つまり3,4はリシャール数です(1もリシャール数です)。ここで「xはリシャール数である」という条件を考えてみましょう。これも自然数に関する条件ですから先の並びの中にあるはずです。番号は分かりませんが、k番だとしておきましょう。すなわち、
k番:xはリシャール数である
ということです。ここで問題です。kはリシャール数でしょうか。仮にkがリシャール数だとすると……?? kがリシャール数であるとは、自然数kがk番の条件を満たさないこと。k番の条件は「xはリシャール数である」なのだから、つまりこの条件を満たさないkはリシャール数ではありません。これは「kはリシャール数だとしたら」という仮定に反します。ではkはリシャール数ではないということでしょうか。kがリシャール数でないとすると、kはk番の条件を満たします。k番の条件は「xはリシャール数である」なのだから、kはリシャール数であることになり、やはり仮定の「kはリシャール数でない」に反します。こうして、kはリシャール数だとしてもリシャール数でないとしても矛盾です。もうどうにもなりません。これをリシャールのパラドックスと呼びます。
ゲーデルという数学者はこれに似た理屈を使い、数学の中で使われる証明そのものを深く追究しました。その結果、不完全性定理という大変な定理を証明することになります。その内容は平たく言うと「数学の中には証明も反証もできない主張が存在する」ということです。準備して、書いてみたいと思います。『ゲーデル・不完全性定理』-”理性の限界”の発見』(吉永良正1992講談社ブルーバックス)には今回紹介したリシャールのパラドックス、そして不完全性定理についてわかりやすく書いてあります。高校生なら読めると思います。ゲーデルは天才だったのですが、精神的に追い詰められてしまい、生涯を閉じます。その辺の事情も載っています。『不完全性定理とは何か』(竹内薫2013講談社ブルーバックス)というのもあります。こちらも面白かった!
ゲーデル・不完全性定理―"理性の限界"の発見 (ブルーバックス (B-947))
- 作者: 吉永良正
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1992/12
- メディア: 新書
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