古代ギリシャの3大作図問題のうちの角の3等分問題について書きましょう。「任意に与えられた角を定規とコンパスを用いて3等分せよ」というもので、1837年、これが不可能であることをワンツェルが証明しました。例えば60°という角は3等分できない、つまり20°の角はどんなに工夫しても定規とコンパスだけを使っている限り作図できないことを示せば証明は完了です。これは図の線分OAを作図できないことを意味します。
実際、もしもOAを作図できれば図のようにOを中心に半径1の円を描けば20°を作図できることになってしまうからです。ちなみに30°なら作図できます。正3角形を描き、ひとつの角を2等分すればよいのです(角の2等分は中学校で習っている)。
さて、Aの座標をαとしましょう。OA=αということです。なお、αは大体0.94くらいの値です(三角関数の知識があればα=cos20°であることが分かります)。実はt=2αとおくと、tは
を満たすことが分ります(証明はこの記事の一番終わりに書いておきます)。従って、もしも★の解を定規とコンパスで作図できるならそれを2で割ってαを作図できます。ここで、そもそも「解を定規とコンパスで作図」とはどういうことでしょうか?
1辺の長さが1の正方形を描けばその対角線の長さだからです。解を作図するとはこういうことです。
しかし、実は方程式★の解は定規とコンパスでは作図できません。従って20°の作図は不可能、ということです。★の解が定規とコンパスで作図できない理由をきちんと示すには代数学の「体(たい)の拡大次数」という考え方が必要です。本当に面白いのはこちらですが今回は省略(長くなりすぎるので!)。代数学のテキストを参照してください。
「角の3等分」は、主張している内容自体はすごく分かりやすい問題です。だからこそ、昔からアマチュアが角を3等分する方法を見つけようとしてきたのです(もちろんその試みは全て失敗に終わっている)。『角の三等分』(矢野健太郎、一松信2006ちくま学芸文庫)、大変面白い本です。この記事は基本的にはこの本によっています。証明全て、というわけにはいきませんが(拡大次数などについては書かれていない)、この問題を考えるために必要な基礎的な概念(体(たい)など)を易しく解説しています。また特に、すでに「不可能」と証明されているにもかかわらず、日夜何とか定規とコンパスで角を3等分しようと工夫を重ねている「角の三等分家」についての面白い記述があります。高校生の時に読みました。著者はこのブログでも何度も紹介した矢野健太郎、すでに亡くなっている数学者(専門は微分幾何学)です。この人は他にも数学の楽しいエッセイもたくさん書いていて、おすすめです。共著の一松(ひとつまつ)信氏も、ブルーバックスなどで素晴らしい本を書いています。