いぬおさんのおもしろ数学実験室

おいしい紅茶でも飲みながら数学、物理、工学、プログラミング、そして読書を楽しみましょう

蝶ネクタイ型変声機の実験を見せる

 もうすぐ今年度初めての授業です。「授業開き」と言うようですね。この言葉、ぼくは今まで使ったことがありませんが。小中で使われているのかも知れません。ぼくの担当は数学なので大抵何かテーマを決めて「こんなに楽しいことがあります」みたいな話をいくつかして、成績のつけ方、授業を受けるにあたって守って欲しいこと、どうしたら数学ができるようになるか、……などを説明します。簡単に自己紹介もします。

 今年は蝶ネクタイ型変声機の話をすることに。実験もやって見せます。記事は前にブログで書いていて、次の通りです。

www.omoshiro-suugaku.com
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 まとめると……アニメ『名探偵コナン』の主人公、コナン君の蝶ネクタイは「蝶ネクタイ型変声機」ということになっています。この変声機に向かってしゃべると、望む声に変えられるのです。(無線で)スピーカーからその声が聞こえます。登場人物の阿笠博士の発明品です。しかし、もとの声と変換された声が混ざってしまうのでは?……とぼくは心配でした。どうしたらよいのか、その解決策が今回の話です。以下は当日に配る数学通信の内容を一部直したものです。

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 声の波形は複雑ですが、原理の説明(高校生向け!)なので簡単なグラフを使います。

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 グラフの①はコナン君の声の波形、②はそれを時間軸に関して対称に移動したもの(易しく言えば上下を反転したもの)、③は毛利探偵の声です。5x+(-5x)=0と同じで、横軸に関して対称移動したグラフの式同士を加えれば0になりますから①+②=0です。これを利用します。変声機は②+③の声を出すのです。そうすれば、
(コナン君の声)+(変声機の声)

= ① + (② + ③) = (① + ②) + ③ = 0 + ③ = ③
が聞こえることになり、つまり毛利探偵の声だけになるのです! 変声機はコナン君の声を反転した声と毛利探偵の声を出す。これにコナン君の声が混ざれば毛利探偵の声だけが残る、ということです。
 なお、②+③だけを聞くと2種類の声が聞こえます。②はコナン君の声を反転したものですから、どんな感じに聞こえるのか、試したことがないと分からないでしょう。「反転したんだからそれこそ地獄の底から響いてくるような声かな?」と恐る恐る実験してみると……普通の声と変わりません。同じように聞こえるのです。
 実験室レベルであっても、人間の声をその瞬間に他人の声に変える変声機を作るのはハードルが高いです。そこで音楽で試してみました。一方のスピーカーからは「さくらさくら」が聞こえます。もう一方のスピーカーからは「さくらさくら」(を反転したもの)と「旅愁」(更けゆく~秋の夜~♪)が聞こえます。同時に聴くとどうなるでしょうか……??
(さくらさくら)+((さくらさくらを反転)+(旅愁))=(旅愁
で、(さくらさくら)がコナン君の声に、(旅愁)が毛利探偵の声に相当します。

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 ここでPCを使って既に作ってあるファイルを鳴らして聞かせます。一方のスピーカーからは①+②が、他方からは③が聞こえるように作ったwavファイル(音声を記録する形式のひとつ)です。一方からは「さくらさくら」と「旅愁が聞こえ、他方からは「さくらさくら」だけが聞こえます。しかし2つのスピーカーを向かい合わせると「さくらさくら」がキャンセルされて「旅愁」しか聞こえなくなります!

 

 理屈だけでなく、実験もしてみせれば「おお、まるっきり架空の話でもないのか!」とか「こんなことができるのか!」とかいうことになるでしょう。大学で、液体窒素超伝導状態にしたお椀(材質は覚えていません)に入れた磁石が浮く、という実験を見せてもらいました。マイスナー効果というやつです。見てはいけないものを見てしまったような、そんな感覚でした。実験だけ見れば物理や数学ができるようになるわけではありません。紙に自分で式変形を書き、定理を証明して使う練習をして、問題を解いて……とやることが実力をつけるための唯一の方法です。でも勉強に取り組むきっかけにはなるはずです。