いぬおさんのおもしろ数学実験室

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大学では1+1=2を証明するのか

 大学では1+1=2を証明するんですか、と聞かれました。「定理:1+1=2である」を直に示すわけではないけれど、近い話は出てきました。だいたいのところを説明しましょう。まず自然数とは何か、きちんと定義(約束)します。高校の授業では普通「1,2,3,………を自然数と言います」としか説明しないし、生徒も「1,2,3,………が自然数なのだ」と思っています。しかし落ち着いて考えると、実は自然数とは何か、全く分かっていないことに気づくはずです。4個の石ころ、4枚の紙、4人の人間、………に共通の何かがある気がしますよね。それが4なのですが、じゃあ4とは何か、もっと正確に説明しようとしても無理でしょう。数学は「4は4。そんなの分かるだろ」なんていい加減な説明を許しません。ここでは詳しくは書きませんが、ペアノの公理というのを用いて自然数を定義するのです。こうして定義された自然数は、それぞれが「後者 (successor)」を持ちます(3の後者は4、7の後者は8、……みたいに)。そして、自然数の足し算はこの「後者」を用いてうまく約束します。それによると、自然数1に1を加えるとは1の後者を求めることです。そして、この1の後者を2と略記するのです。つまり1+1=2なのです。以上をさらに平たく言うと、「1+1を2と略記している」となります。
 考えてみれば、マイナスの数×マイナスの数=プラスの数だってちゃんと説明できないでしょう。しかし中学生のとき、数学の先生はちゃんとした証明ではないですがきっと次のような話をしてくれたはずです。x軸上の原点から、右向きに1秒で距離3ずつ進むとします。スタートしてから2秒後、座標は3×2=6です。左向きに1秒で3ずつ進むなら2秒で座標は-6のはず。式で書けば(-3)×2 = -6 でいいでしょう。左に1秒で3ずつ進んでいるとき、原点にたどり着く2秒前なら? 座標は6ですから、(-3)×(-2)=6ということになります。しかし、こんな説明では「なんで右に進むのが+で左が-なのか」など、納得しない人だっているでしょう。別の説明もあります。昔、大数学者オイラーは次のような説明をしました。(-1)×(-1)の値は1か-1です(さすがに「87だ!」なんて人はいないでしょう……)。しかし仮に(-1)×(-1)=-1だとするとまずいことになります。実際、両辺を-1で割ってみると-1=1となってしまうからです! 従って(-1)×(-1)=1であることが示せました。どらも怪しさ満載の説明であることに変わりはないですが、ぼくは比較するとまあ後の方が納得できるかな……。しかし数学にこんなあやふやな話があるはずないのです。実際にはどうやって「(マイナス)×(マイナス)=(プラス)」を示すのか。先の自然数の定義の次に整数の定義をします。そして整数のかけ算を定義します。それによると疑問の余地なく(マイナス)×(マイナス)=(プラス)なのです。そうなるよう(経験に合うように)うまくかけ算を定義したとも言えますが。このオイラーの話は『逆説論理学』野崎昭弘1980中公新書)に載っていました。  

逆説論理学 (中公新書)

逆説論理学 (中公新書)

 

 大学(の数学科)ではこんなことも勉強するのです、……という話でした。理系の人でも数学科でやる勉強を「そんなことやって何になるんだよ」と言ったりすることがあります。そういう人はきっと、整数論がある瞬間からいきなり世の中の役に立つようになった事実(暗号への応用)などは理解していません。それにそもそもこれほど厳密だからこそ他の科学が全面的に信頼して数学を使えるのにね……。