『暗号の数理』(一松信2005講談社ブルーバックス)を紹介しましょう。高校生の時に古い版を読みましたが、最近新しい版も買いました。この本は、暗号の歴史、古い暗号から現代の暗号まで、そしてP問題、NP問題、P≠NP予想など、あまり数式は使わずに興味深いテーマをしっかり取り上げています。ホームズの『踊る人形』の暗号を始めとする推理小説に登場する暗号、戦時中に使われた暗号、新しいものでは公開鍵暗号、特にRSA暗号の説明など、1冊読めば暗号についてひと通りの知識が得られます。単なる「お話」の本ではありません。理屈がしっかり書いてあり、読み方次第で次のステップにつながる本だと思います。「素因数分解は難しい」ということがかなり強調されており、それを利用した暗号であるRSA暗号ついても丁寧に説明しています。この部分では読むのに数学の整数論の知識が必要ですが、高校生でもちゃんと勉強していれば理解できるはず。またP問題、NP問題についても初めての読者向けに分かりやすい説明があります。
P問題、NP問題について大体のところを説明しましょう。P問題というのは解を簡単に求められる問題。NP問題は、解の候補が何かの方法で分かれば、それが本当に解かどうか調べるのは簡単である問題です。例えば2数の最大公約数を求める問題はP問題、素因数分解はNP問題(素因数分解は、「n=pqrと素因数分解できるかどうか?」なら単にかけ算するだけだからアッという間に分かる。だからNP問題と言える)です。P問題、NP問題はたくさんあるのですが、NP問題にはどう見ても難しそうなものが混ざっています。そこで、数学にはP≠NP予想というのがあるのです。P問題、NP問題は、問題を2種類に分類するものではありません。さっきの定義(曖昧に書きましたが)を見れば分かりますが、そもそも観点が異なるのです。だから実際、定義から自動的にP問題はNP問題ですし、またNP問題であってP問題でないものもあるかも知れません。P≠NP予想はこの「P問題でないNP問題がある」という主張です。P=NPが成立すると大変なことになります。例えば素因数分解(NP問題)は易しい(P問題)、ということになり、現代の暗号の依って立つ基礎(「素因数分解は難しい」など)がガラガラと崩れ去るからです。こんな話が載っています。
名著と言っていいと思います。暗号に興味のある人にはまずこれを紹介したいです。
改訂新版 暗号の数理―作り方と解読の原理 (ブルーバックス)
- 作者: 一松信
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/09/10
- メディア: 新書
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