前、相加平均と相乗平均について書きました。「平均」の定義は場面によって変わります。「この辺が全体の『真ん中』あたりかな?」というのが「平均」で、状況に応じて計算の仕方は変わるのでした。今回は別の平均、調和平均について書きましょう。
ある道を往復します。行きは時速60km、帰りは時速90kmで走ったとします。全体を通しての「平均」はいくらでしょう?
単純に(60+90)÷2=75とやってはいけません。時速90kmで走った時間と時速60kmで走った時間とでは後者の方が長いからです。だから答えは単純な平均(相加平均)である時速75kmよりも時速60kmに近い値になるはずです。道の長さをakmとしましょう。行きはa/60時間、帰りはa/90時間かかります。走った距離は往復で2akmですから、(距離)÷(時間)で全体の速さを求めれば 2a÷(a/60+a/90)=2÷(1/60+1/90)=72 となります。これが全体を通しての「平均」の速さで、60と90の調和平均と呼びます。この時速72kmを「速さの平均だ」と主張するのは自然でしょう。変数を使えばx、yの調和平均は次のように書けます。
もうひとつ調和平均の例を。60Ω、90Ωの抵抗を並列につないだものと、xΩの抵抗を2個並列につないだものの抵抗が等しくなるようにxを決めると、このときもやはりx=2÷(1/60+1/90)が成立します。ここでは説明はしませんが、これはオームの法則から出ます。このxは60と90の、ある意味の平均と言ってよいでしょう。
他にも○○○平均というのはありますが、とりあえず今回はここまで。なお、正の数だけを相手にしているときには、相加平均、相乗平均、調和平均の間には(調和平均)≦(相乗平均)≦(相加平均)という関係のあることが示せます。つまり以下が成立するのです。
繰り返しますが、平均というのは「ここらあたりを真ん中と考えればいいかな?」という値のことです。状況によって「真ん中」の意味が変わり、計算の式も変わるのです。