バナッハ=タルスキのパラドックスの話です。パラドックスというのは正しそうな議論をしているのに出てきた結果が何だかヘン、という話のこと。結果がヘンと言っても、今回のは証明されている事実であって、これは「バナッハ=タルスキの定理」なのです。しかし不思議です。以下の通りです。
半径1の球を構成している点をいくつかのグループに分けてバラし、これらのグループを組合せ直して半径1の球を2個作れる。
いくつかのグループに分けたあと今までとは別の組み合わせ方をするわけです。その際には途中で例えば長さ1の線分をビョーンと引き延ばして長さ2にする、なんてズルはしません。あるグループに属する点たちを一斉に同じ軸を中心に120°回すとか、一斉に平行移動はするけれど、「そんなことをすればそりゃ体積が2倍になったって不思議でもなんでもないよ!」と思われてしまいそうなことはやらないのです。証明は、本なら10ページかそこらで済みます。以下を示せばあとはすぐです。
半径1の球面を構成している点をいくつかのグループに分けてバラし、これらのグループを組合せ直して半径1の球面を2個作れる。
しかし高校の理系でやる空間の幾何学や行列の計算、大学で勉強する集合論や群論(数学科へ行けばどちらも2~3年生くらいで勉強します)の基本的な部分の知識が必要です。ぼくは定理の証明を次の本で読みました。
- 作者: レーナード・M・ワプナー,佐藤宏樹,佐藤かおり
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2009/11/25
- メディア: 単行本
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関係する話題もいろいろ取り上げてあり、楽しいと思います。理系で、興味のあるみなさんは読んでみるといいでしょう。ぼくはこの本の証明を読み、目の前にもとの球が2個現れたとき、ゾッとしました。そのときの「恐ろしい、けど面白い」という感覚は忘れられません。
証明では「選択公理」というものを利用しています。集合論に出てきます。リンゴの山が100あるとしましょう。この100の山のそれぞれから1個ずつ、リンゴを取り出すことはできますよね。例えば「山の、一番高いところにあるリンゴを取り出す」というルールでいいでしょう。しかし、この山が無限個あったらどうなるか? 実は、リンゴの山くらいならどうとでもなりそうですが、山が無限個あるときには取り出すルールをはっきり書けないケースがたくさんあるのです。しかしそれでも「ルールなんかはっきりさせられなくても、とにかく1個ずつ取り出せるんだよ」というのが選択公理の主張する内容です。選択公理については難しそうな問題がたくさんあるようですが、とりあえず今回はここまで。