学校で、学年の会計の担当になることがあります。何かの理由で、通帳のお金と帳簿のお金が10円とか100円とか合わないことがあります。ぼくの場合、今まで起こった問題は「あ、ここでミスしてる」などとたまたま全て解決しましたが、ことによると原因が分からないことだってあるかも知れません。3時間がんばっても解決しないようなら、ズレが100円くらいなら自腹を切って「解決」ということにしたくなると思います。そんな話を事務の人とする機会がありました。事務の人は「いや、そういうことではないんですよね」。まあ、分かります。1円だってズレたらまずいし、自腹を切って見かけ上なんでもない感じになっても、本当の解決にはなっていないのです。これが理屈というものです。TVドラマ『花咲舞が黙ってない』でも、小切手か何かを紛失した銀行員が自分で補填しようとしたのを先輩行員である相馬さん(上川隆也)がたしなめる場面がありました。そう言えば、銀行に就職した教え子に聞いたことがあります。1日の最後の点検で1000円ズレていることが分かり、大騒ぎになって深夜、誰かの足下に落ちているのに気づいて解決したそうな。銀行は厳しいんだ、と思います。
しかし、ですね……。誰だって1時間いくら、で働いています。もうどこかへ行った1円を探し回るのは時間の無駄でしかありません。組織の時間、自分の時間、両方を無駄にしています。そんなことなら自分が100円かそこらなら払ってスッキリ……というのはひとつの選択肢に思えます。場合によっては1000円、10000円でも。でもまずいんでしょうね。それが理屈です。
「なるほど、立派だ」と思っているところへ、立て続けに銀行の貸金庫の中身が消える、というニュースがありました。「1円だってズレは許さない」はずの銀行で何千万とか何億円とかが消えたらこれはもう想像を絶する大事故です。ネットで調べると広島型原爆(リトルボーイ)の出力は55兆ジュールだそう。1kgの物体を1メートル持ち上げるのに要するエネルギーはmgh ≒1×9.8×1≒10ジュール。すると1円を探すのに要するエネルギーはその1000倍、1万ジュールくらいかも知れません。時間、精神的な負担、関わる人数なども考慮しました。もちろん単純にエネルギーでは測れないけれど、まあ想像の世界です。さて、そうすると……1億円が消えたなら1万×1億=1兆ジュールです。事故の規模が分かります。
要するにバランスがおかしいのです。1円の捜索と貸金庫の事故を防ぐのにかけている手間と。