いぬおさんのおもしろ数学実験室

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実数全体のうち、きちんと定義できる実数はどのくらいあるか

 自然数全体の集合N、実数全体の集合Rはどちらも無限集合です。しかし同じ「無限」であっても程度があり、NよりもRの方が言わば「たくさんの無限」なのだ、という話を書きました。 数学の言葉では「Rの濃度はNの濃度より大きい」と表現します。

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 さて、例えば√2という数は

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と明確に定義できます。また円周率πは

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と定義できます。これは何回か前の記事で書いたマチンの公式です。このように、きちんと定義できる実数は実数全体のどの程度あるのでしょうか。なお、√2=1.41421356………ではダメです。「………」の意味が明確でないからです。これらのきちんとした定義は日本語で表現できます。数字なども含め、使える文字は10万種類とでもしておきましょう。今、素数列2,3,5,7,11,13,………を考えます。様々の実数を日本語で定義し、これを10万種類の記号で書きます。そしてその定義をひとつの自然数に対応させることを考えます。例えば(実数ではありませんが)「みかん」は、あいうえお50音で32番目、6番目、48番目(「ん」は「らりるれろ」の後に「わをん」とつなげて48番目とした)の文字を使います。これらの番号を小さい順に並べた素数の肩に載せて

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という数を作ります。これは想像を絶する大きな数ですが、それは気にしないで大丈夫です。とにかくこれで「みかん」にひとつの自然数Nが対応しました(Nを素因数分解すると「みかん」が得られるわけです)。同じ方法で、日本語

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にも大きな自然数Mが対応します。もちろんMはNとは異なる自然数です。………となると、きちんと定義できる実数はどれもこれも異なる自然数に対応します。これはきちんと定義できる実数は自然数の個数以下であることを意味しています(そういう実数が無限個あることは明らかですから、実際にはきちんと定義できる実数の個数は自然数と同程度の個数です)。
 ぼくたちは簡単に「」などと書いて「実数全体の集合」なんて言います。でも実数は自然数よりも圧倒的に多く、実数のうちぼくたちがきちんと定義できるものは自然数と同程度、言わば実数のうちのごくごく一部しかないのです。気安く「実数をx,yとする」とか書くけれど、ほとんどまともに定義すらできない実数たちを相手にしているということです。そういう実数たちを基礎として微積分やその他の数学が成り立っています。これでいいのでしょうか。

実はまずいのかもしれませんが、「きちんと表現(定義)できる」ということと「実数が存在する」ということは別の問題ですから、それでよいとも言えるでしょう。

といったことを書いている本がありました。そうとでも考えなければどうにもならないという事情もあると思いますし、ぼくはまああんまり気にしないようにしています……。
 ここでは「自然数の個数」といった書き方をしました。分かりやすさを考慮してのことです。正しくは「濃度」という用語を用います。分野としては集合論、数学科へ行けば例えば2年生くらいで出てくる話です。