いぬおさんのおもしろ数学実験室

おいしい紅茶でも飲みながら数学、物理、工学、プログラミング、そして読書を楽しみましょう

値が0になる整式で割り算してもよいのか

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のとき、

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の値を求めます。高校数学で見かける問題です。次のような説明があります。

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を得ます。②を③の左辺で割って得られる

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のxに①を代入して、

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となります。計算の途中、③を使っています。

 参考書にもこんな風に書いてあるはずですが、ときどき生徒が

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と聞いてきます。そう言いたくなるのも分かります。こちらが普段「0で割ってはいけない!!!」とさんざん吹き込んでいるんだから。こういうとき先生たちはどう対応しているんでしょうか。

 

 例えば……「④は、割り算とは関係ない、さっきふと思いついた恒等式だ」とでも答えればいいでしょう。確かに、単なる式変形をしただけなんだから数学的には問題ありません。「なんで思いつくのか」かも知れませんが、「こっそり割り算した」ということになります。それか、

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とおいてa、b、cを決めたんだよ、実際には割り算したんだけどね、などと説明してもいいでしょう。

 

 割る式が(xがある値の時に)0になるかどうかは整式の割り算には関係ないのです。それを言い出すと「x-2で割ると……」というときにx=2ならどうする、といちいち気にしなければならないことになりますが、今回の生徒だってそれは考えていなかったでしょう。だいたい、どんな整式だって、xの値によっては0になるのです(代数学の基本定理)。

 整式の割り算の仕組み(筆算)を考えてみてください。最高次の係数から順に消してゆく、というアレです。「xの値が~のとき」という話とは無関係ですよね。あるいは、そもそも整式の割り算とは……任意の整式A、Bに対し、A=BQ+R(Rの次数はBの次数未満)となるQ、Rがそれぞれだけひとつだけ存在する、というものでした。このときQを(AをBで割った)商、Rを余りと言います。やはりBの値(xに何かの数値を代入した結果得られる値)とは無関係です。「x=~のとき0になる!」から「x=~を代入してはいけない」という理屈は成立しないのです。

 この辺まで話すと生徒はだいたい納得すると思いますが、それでもダメなら「④は、割り算とは関係ない、さっきふと思いついた恒等式だ」に戻ればOK。「あとは君の感情の問題だ」とか言ってみましょう。生徒が面白い切り返しをしてきたら教えてください!!