いぬおさんのおもしろ数学実験室

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第2宇宙速度とシュバルツシルト半径

 第1宇宙速度の次は第2宇宙速度です。地球脱出速度とも言います。地表から物体を真上に投げ上げることを考えます。遅く投げればすぐ戻ってきてしまいます。もっと速く投げると時間が経ってから落ちてきます。さらに速く、秒速11.2kmで投げるともう戻ってきません。これが第2宇宙速度なのでした。考えてみれば結構不思議で、重力はどんなに遠くても働くんだからいくら強く投げたっていずれは戻ってきそうな気がします。しかしそうではないのです。
 物理学の教えるところによると、第2宇宙速度vは次の①で計算できます(証明は省きます)。

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ここでGは万有引力定数(単なる何かの定数と思ってください)、Mは地球の質量、Rは地球の半径です。この式からRを求めると②になります。

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この先はちょっと怪しい議論ですが、まあ見てみてください。光速度をcとしましょう。このとき、物体の動く速さはどんなに速くてもc未満なのでした。つまり光速度以上の速さの運動はありません。従って、もし地球脱出速度vを計算してv=cだったら、それは「地球から脱出できない」を意味します。すると、脱出できないような半径を求めたいなら②でv=cとおけばよいですね。こうして下の③を得ます。

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 ブラックホールは「重力が強すぎて光すらも脱出できない(もちろん何を投げても脱出できない)」天体、ということでした。物体を限界(光速度)まで速く投げても脱出はできない、ということでv=cと置いてみたのです。次の定数の値、

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を③に代入してみると

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を得ます。これは地球を質量はそのままで9mmに圧縮すればブラックホールになることを意味します。ここまで圧縮した地球からボールを投げると、必ず戻ってきてしまうのです。
 ここで計算した値はシュバルツシルト半径と呼ばれ、天体の質量Mが決まれば決まります。天体をシュバルツシルト半径まで圧縮すればブラックホールになるのです。実はここで書いた方法は恐らく重力の本質には触れておらず、たまたま正しい公式③が出るだけです。それにそもそも、上記の脱出速度を使った議論では「星の外に飛び出してもいずれは引き戻されてしまう」ような限界の半径を求めたに過ぎず、本来の意味のブラックホールとは異なります。ちゃんと考えるには相対性理論が必要です。それでも、どうしてこんな簡単な計算でうまくいくのか、ことによると何か合理的な理由があるのかも知れません……。