いぬおさんのおもしろ数学実験室

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『アーマッド王子と仙女パリバヌー』

 偕成社の『世界こども文学全集』の一冊です。出版社も全集の名前も本のタイトルも実ははっきりしませんが、実家に帰ればある程度分かるかも知れません。しかし『アーマッド王子と仙女パリバヌー』というお話が載っていたのは確かです。どうもこれ、アラビアンナイトの話のひとつらしいです。あとでアラビアンナイトを読んだとき近い内容のものがありました。

 アーマッド王子はある国の3人の王子の末っ子です。3人ともいとこのヌーロニハール姫を好きになり、王様は「旅に出て、1年以内に最も珍しいものを持ってきたものが結婚できる」という勝負をさせます。3人は旅に出て、長男は空飛ぶ絨毯、次男は遠めがね(どんなに離れていても望むものが見える)、アーマッド王子は匂いを嗅ぐだけでどんな病気も治すリンゴを手に入れます。遠めがねで姫が重い病気であることが分かり、空飛ぶ絨毯で姫のもとに戻り、リンゴの匂いを嗅がせて元気になりますが、3つの不思議なアイテムはどれも大事な役割を果たしました。王様は仕方なく「矢を射て一番遠くまで飛ばしたものが結婚できる」と新たなルールを決めます。3人が射ましたが、アーマッド王子の矢だけがなぜか見つかりません。あまり飛ばず気の毒に思った仙女パリバヌーがこっそり遠くへ飛ばしたのです。アーマッド王子の矢はなくなってしまったように見えたので、結局長男が結婚することになりました。アーマッド王子は「人間がこんなに飛ばせるはずがない」と不審に思い、矢の飛んだ先を探していて、美しいパリバヌーに出会います。2人は結婚して幸せに暮らすのですが……と話は続きます。

 あー、また読んでみたくなりました。一応何だか不思議な秩序があり、いかにも不思議なアイテムも登場し、お決まりの美しいお姫様。カラーの挿絵も素晴らしい。これまたいかにも古い中近東?か分かりませんが、不思議な雰囲気を醸し出しています。今はこんなの、なかなかお目にかかりません。

 このシリーズは『ながくつしたのピッピ』、『注文の多い料理店』、『スケートをはいた馬』、『パジャマを着た宇宙人』、『ふしぎなふしぎな時計』、……と舞台も様々で、小さい頃ワクワクしながら読んだものです。1冊はアラビアンナイトから話を選んでいたんですね。ある本には悪い魔法使いの「ええい、どくくらわばさらまでじゃ!」という魔法使いの台詞が載っており、読んでいた当時ぼくには意味が分かりませんでした。今は童謡でも授業でも何でも「分かりやすく,分かりやすく」ばかり。何なんでしょうね。怪我しないように、何もさせない、みたいな感じです。でも限度はあるけれど、分からないことがあったっていいのです。後で「ああ、これがあのときの……」と身にしみて分かるのですから、素晴らしいことです。話を戻して、こういう言葉の雰囲気もまとめて懐かしい記憶として残ります。

 こういう本、今でもあるのかな……と本屋さんで児童文学のところを見ても「このシリーズをひと通り読むと童話の世界を味わえる」みたいなのはなさそうでした。流行らないのでしょうか……。童話作家の人は毎年たくさん生まれるわけですから、本屋さんとしても古いものばかり並べておくわけにはいかないのかも知れません。こういった本、今の『ハリーポッター』にあたるのかも。違うか。

 文庫で出てくれればありがたいんですが。