いぬおさんのおもしろ数学実験室

おいしい紅茶でも飲みながら数学、物理、工学、プログラミング、そして読書を楽しみましょう

書籍『早すぎた男 南部陽一郎物語 時代は彼に追いついたか』紹介

 この前読んだ『フォン・ノイマンの哲学』が面白かったので、本屋さんで見つけたやはり科学者の伝記を衝動買いしました。

おなじみのブルーバックス講談社の新書のシリーズ)の新刊です。途中ですが、面白いです。『フォン・ノイマンの哲学』の方が文体や内容がややキチッとしていて、今回のは比べてかなりくだけた感じ。「自発的対称性の破れ」の発見によりノーベル賞を獲った科学者、南部陽一郎の俗っぽい面も遠慮なく紹介しています。彼はアメリカの高等プリンストン研究所に招かれて2年間研究していたのですが、アインシュタインに会いたくて家の近くまで行ったとか(アインシュタインは研究所の教授でした)。彼の人間味が感じられるエピソードです。また彼はもちろん天才なのでしょうが、研究所に来る他の人たちも大変な天才たち。彼らに対して劣等感を持ち、大変な苦痛を感じていました。何度も関係の人たちに助けられ、ひょっとして少し何かが違っていたら彼の人生も大きく変わっていただろう、という話も書いてあります。2次大戦前から戦後にかけて日本の物理研究がどんな感じだったのか、具体的な話がたくさんです。この本を1冊読めば当時の物理の研究者たちがどんなことを考え、どうやって勉強、研究を続けていたのか分かります。

 アインシュタインについても書いてありました。晩年、量子力学の考え方に納得できなかった、という話はよく聞きます。彼は南部先生に「不確定性原理は、物体の位置と速度は同時には確定しないといっている。しかし空の月をみてみたまえ。月の位置と速度が同時に決まらないなどと考えられるかい?」と言ったそうです。この本には「真相はもう少し過酷で、アインシュタインは新興の量子力学についていけなかった。南部も老いた天才の間違いと衰えに早々に気づいたが、彼の量子力学批判を黙って拝聴していた」とあります。どんなに賢くても有名な研究者でも、苦労や嫌な思いをするなど、その辺はぼくと変わらないんだなあ……としみじみ思いました。

 まだ半分くらい残っています。楽しめそうです。