いや、結んでなくてもよいですが……。空間の中で連続な曲線が自分自身と交点を持たないとします。また輪になっていてもよいとします。要するに、ひもを用意して、結んであったりなかったり、絡んでいたり……という状況を考えるのです。ただ、数学的にはひもは連続曲線ですが、それが1点に向かって無限にぐるんぐるんと半径を小さくしながら向かっていったりするようなことは考えないとしましょう。さて、こういう結び目はいくつくらいあるでしょうか。無限個あることは確かです。自然数と同程度か(「可算個」と言うのでした)、それより多いか、です。なお、ひもを多少動かしても結び目としては変わらないならそれは1つと数えます。
もしも結び目全体に1番、2番、……と番号を振れれば結び目は可算個です。実は番号を振れるのです。これを示してみましょう。まず、結び目は折れ線で表してもよいですね。曲がっていようが折れていようが結び目としては変わらないからです。さらに、その折れている点(以降では「折れ点」と呼びましょう)は空間の中の有理点(座標が全て有理数である点)としてもよいでしょう。つまり、例えば座標が(√2,1,1)でも(1.414,1,1)など必要に応じて十分√2に近い有理数を使えば問題ありません。ところで有理数は可算個しかないのでした。
可算個、つまり有理数にはどれも一意の番号がついています。 例えば折れ点が(13/100,-23/4,58/169)だとしましょう。座標それぞれの有理数が134番目、256番目、189番目だとして、この点に対し素数2,3,5を使って
という数を対応させます。相当大きな数ですが、そのこと自体はここでは問題になりません。この方法でひもの折れ点には一意の自然数が対応することが分かるでしょう。なお、2,3,5はどの点に対しても共通に使います。x,y,z座標用にそれぞれ2,3,5を用いるのです。こうして、結び目のスタートの点、次の折れ点、その次の折れ点、……、最後の折れ点、と順番にこのやり方でそれぞれの点に対応する自然数が決まります。これを
としましょう。これに対し、素数列2,3,5,……を使って
という自然数を対応させます。
これで、結び目には上のような自然数が対応することが分かりました。ループしている結び目などではスタートの点の取り方によって対応する自然数は変わりますから、この対応自体は一意ではありません。しかし、結び目が有限個ということはないですから、結局可算個あることが分かります。「単射」という言葉を使って説明してもよいですが、この程度の説明でお分かりいただけると思います。
実は素数列を使って何かを自然数に対応させるアイディアは、かのゲーデルが不完全性定理の証明の中で用いています。それをマネしました。