いぬおさんのおもしろ数学実験室

おいしい紅茶でも飲みながら数学、物理、工学、プログラミング、そして読書を楽しみましょう

GPSのない時代に海上で経度をどう求めていたか

 今ではGPSがあり、自分がどこにいるのかリアルタイムで分かります。しかし昔はそうではありませんでした。例えば海上では暗礁(あんしょう)など危ないところもありますし(実際に事故も多かった)、測位(自分がどこにいるのか、位置を求めること)の技術が切望されました。地球上では緯度と経度がはっきり分かればよいのですが、このうち緯度は易しいのです。実は北極星の高度を測ればそれがそのまま観測地点の緯度になります。問題は経度でした。本題ではありませんが、GPSは(アメリカが打ち上げた)30個くらいの衛星のうちのいくつかからの信号を受信することによって測位する技術です。初めてこの話を聞いたときに「なんと夢のある話だろう」と思いました。自分の位置を調べるために宇宙に衛星を飛ばしてそれを使う! そうきたか、という感じです。話を元に戻して……。GPSはおろか無線通信すらできなかった時代、人々はどうやって測位していたのか、つまり経度をどうやって求めていたのか。なんと、正確な時計を作ることによって経度を測っていたのです!!
 まず経度とは何だったか、一応説明しておきましょう。イギリスのグリニッジ天文台を経度0°として、北極上空から眺めて左回りに角度を測ります。それが東経。右回りに測れば西経なのでした。この東経、西経が経度です。地上の点は緯度と経度が定まれば決まります。今、船が港を出ます。ここを母港と呼ぶことにしましょう。出るときに精度の高い時計を時刻合わせしておきます。昼の12時だとします。説明を簡単にするため、母港は経度0°、太陽は南中している(真南に来ている)としましょう。地球は24時間でちょうど1回自転しますから、1時間あたり15°回ります(西から東に。北極上空から見て左回り)。

f:id:Inuosann:20190722223727p:plain

これは西経15度の地点(図の「観測地点」)では、母港で太陽が南中した1時間後に南中することを意味します。つまり、母港で精密な時計を正確な時刻に合わせておき、海上でもし午後1時に太陽が南中したらそこは西経15°なのです。
 1700年代、時計職人のハリソンが大変な苦労をして正確な時刻を測れる時計を作り、それによって経度が分かるようになりました。今回要点しか書けなかった測位の原理、ハリソンの苦労などが『経度への挑戦』(デーヴァ・ソベル2010角川文庫)にわかりやすく、詳しく楽しく書いてあります。素晴らしい本でした!

経度への挑戦 (角川文庫)

経度への挑戦 (角川文庫)

 

  数学が、ぼくたちに見えるところ、見えないところで様々、役に立っていることは事実です。「だから人間は全員数学を勉強すべき!」……とは思いませんが、ものごとを理詰めで考える姿勢、力は絶対に必要だと思います。数学でなくてもいい、若い人たちにはこういう本を読んで欲しいのです。世の中の知識の半分には理系の学問が関わっています。こんな類いの本が読めればすごく楽しいのに、そういうことを知らなかったり食わず嫌いしたりで読まない、というのはもったいないことです。