いぬおさんのおもしろ数学実験室

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西暦元年1月1日は何曜日だったのか

 もう30年以上前のこと。週刊新潮か文春に面白い記事がありました。多分先輩の先生にもらったコピーだったかも知れません。自民党のある議員が富士通のオアシス30AXというワープロについているカレンダー機能で西暦元年の1月1日の曜日を調べたのだそう。若い人は知らないかも知れませんが、前はワープロ専用機があったのです。NECからは文豪、東芝からはRupoといった機種が出ていました。オアシスでは日曜日と表示されたのだそうです。彼はさらに自分のパソコン(NECのPC9801)にカレンダー機能を持つソフトを入れて調べてみました。すると月曜日です。過去にさかのぼってズレ始めを調べると16世紀。富士通に聞いてみると「1582年10月は5日~14日が存在しないので、日曜日で正しい」と説明されます。カレンダーが15日分存在しないのですから、曜日はひとつ戻って月曜から日曜になるわけですね。確かに現行の暦、グレゴリオ暦はその前のユリウス暦から切り替わるとき、事情があって日付が飛んでいるのです。しかしさらに三鷹天文台にも聞いてみると、なんと「土曜日」。オアシスでは西暦4年を閏年扱いしておらず、天文台閏年と考えたようです。1582年以前にはユリウス暦からグレゴリオ暦への切り替えのときみたいに日付が飛んだり増えたりしていることがないのなら、天文台の言う通りなのでしょう。「なぜ天文台?」と思う人がいるかも知れません。正確なカレンダーを作るには天体の運行を調べなければなりません。だから天文台は暦の専門家なのです。ちなみに……今、ぼくのPCで確認すると……年号が1922年までしか戻りません。だからそれ以前のカレンダーは表示できず、曜日は分かりません。

 閏年の置き方、置閏法はグレゴリオ暦では以下のようになっています。

置閏法
西暦年が4の倍数なら閏年。ただし100の倍数なら閏年とはしない。さらにただし、400の倍数なら閏年とする。

以前、このブログで西暦1976年3月1日を1番の日として以降順番に番号を付けたときのY年M月D日の番号を求める公式について説明しました。

www.omoshiro-suugaku.com

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1976年3月1日を1番目の日とし、翌日を2番、次を3番、……とすると、Y年M月D日の番号は次で計算できます。上の記事で説明しています。なお、1月、2月はそれぞれ前の年の13月、14月と考えます。

N=365Y+[Y/4]-[Y/100]+[Y/400]+30M+g(M)+D-721809

ここでg(M)は次の表で計算される値です。

この式を使うと、2022年7月26日の番号は

365・2022+[2022/4]-[2022/100]+[2022/400]+30・7+g(7)+26-721809

=16949番

西暦元年1月1日の番号は

365・0+[0/4]-[0/100]+[0/400]+30・13+g(13)+1-721809

=-721412番

となります。従って経過日数は

16949ー(-721412)=738361日です。

この値を7で割ると余り1ですから、2022年7月26日が火曜であることから西暦元年1月1日は月曜日と一応、分かります。

 NECの答えはこれですね。これは暦の切り替えがない(過去もずっとグレゴリオ暦のまま)という仮定で計算しています。つまり、例えば西暦1300年は年号が100の倍数ですから閏年ではないと考えるのです。しかし実際にはユリウス暦だったのですから1300年は閏年です。つまり、この解答は正しくありません。ではオアシスや天文台が正しいのかと言うと、そうでもない気がします。

 もとの記事では、今のような曜日の週間が西洋で一般に広まったのは3世紀頃なので、西暦元年には日曜も土曜もなかったのだ、とまとめられています。そんなところなのでしょう。西暦元年の頃は通信の手段もほとんどなく、地域によって日付がバラバラだったということも考えられますし、そもそも厳密にユリウス暦で日付を進めていたのかも怪しいでしょう。他の地域との調整のため「今日は4月20日だけれど、明日は5月1日とする!」というようなことが何回かあったかも知れません。当時の人たちが「今日の曜日は××」と認識していた、という意味での曜日ははっきり決まらない、というのが結論なのでしょう。