いぬおさんのおもしろ数学実験室

おいしい紅茶でも飲みながら数学、物理、工学、プログラミング、そして読書を楽しみましょう

ICT教育は素晴らしい?

 昔の同僚の先生に聞きました。教科書会社の人が、「数学の授業やその教材でテーマを選んで数学の深い内容、面白さを伝える」といった感じの本は流行らない、というようなことを言っていたそうな。じゃあどんなのがいいのかというと「ICT教育」だと。要するにパソコンやタブレット、インターネットなどをうまく使って授業を展開するとか、そんな内容ですね。少し前、「ICT教育を世界の先頭に立って進めてきたスウェーデンが紙と鉛筆のアナログ教育に戻す」というニュースがありました。生徒の学力が下がってしまい、その反省からみたいです。しかしスウェーデンがどうしたとかそんなこととは関係なく、さっきの教科書会社の人の話、薄っぺらだと感じます。ICT教育など、数学の内容とは何の関係もありません。教科書会社の人が気にするのは本が売れるとか売れないとかなのでしょうから、仕方ない部分もあります。しかしそうすると買い手の教員も情けない。流行りを追いかけ回し、「アクティブラーニングは素晴らしい!」「ICT教育は素晴らしい!」と騒いでいるだけに思えます。そういう人は「最先端の教育」の本をありがたがるでしょう。
 自分が教えていたわけではないですが関わりのあったクラスで、いわゆる「授業崩壊」しているのを見たことがあります。ICT教育(多分相当進んでいる)を導入しており、そのこと自体とは直接の関係はないでしょうが「生徒にグループを作らせ、相談させたり発表させたり」していました。そうなると自動的に、ある程度、席の移動や生徒同士が話したりするのを許すことになります。どこでも大抵そうであるように生徒の席はもともと決まっており、これを守らせないと全体に私語の多い、生徒が集中しない授業になるものです。教員のイロハです。相談するときはいいけれど先生が話すときはきちんと自分の席に戻させる、といったやり方にすべきでした。このクラスは、とにかくけじめのない状態でした。好きな生徒同士が固まって座り、勝手にしゃべって「ICT教育」のためのタブレットで授業とは関係のないサイトなんかを見ている。「こりゃダメだ」という感じです。
 生徒が「自分は数学を勉強するのだ!」というそれなりに強い意志を持っていないと、タブレットを与えられればこうなってしまう部分があります。目新しいですし、最初はちゃんとやるでしょう。しかしすぐに緩みます。「ICT教育は素晴らしい!」なんてのんきに喜んではいられないのでは? もちろんこれはよくない一例にしか過ぎません。でも事実は事実です。こういう側面があることを忘れてはいけないと思います。
 さて、話を元に戻して……ぼくはよく「自分はどういう授業を受けたいのか」と考えます。流行りを追いかけ回している教科書会社の人たち、先生たちはどうなんでしょうか。ICT教育だから数学的な内容が素晴らしい……というわけではありません。関係ないのです。ぼくはICTだろうが何だろうがいいんですが、とにかく面白い話をして欲しいです。「ICT教育だから素晴らしい!」なんてバカな話なのです。