3次の正方行列A、Bを考えます。成分は以下の通りだとしましょう。
積ABを考えます。積の定義によると
つまり、
ということです。
この添え字ですが、みんなで約束しておけばどこに書いてもよいので例えば行列Aの i, j 成分を
のように表しても問題ないはずです。この場合、例えば行列Aは
となります。肩に乗っているのが行、ということで、ひょっとしたらこちらの方が見やすく間違いも起こりにくいかも知れません。このとき行列Cの 2,1成分は次のように書けます。
どうせ和を求めると分かっているとき、いちいち Σ 記号をつけるのもバカバカしいですよね。アインシュタインは素晴らしいことを思いつきました。「アインシュタインの規約」といいます。これを使うと、
のように略記できるのです。添え字には上付きのものと下付きのものがあります。ひとつの項で同じ添え字が上下についてる場合、その添え字を与えられた範囲(ここでは1から3)を動かして総和を取ると約束する、というのがアインシュタインの規約です。アインシュタインの冗談でしょうが、「自分の数学における最大の発見」と言ったそうな。なお、肩に載せる添え字は累乗ではありません。念のため。
省略するのは分かりきっている部分ですから、みんなで約束しておけば問題ないのですね。なお、高校では許されません。ちょっとでもそんなマネをしようものならアッという間に「オマエ、そんな書き方はないぞ」となります。高校では Σ も添え字の動く範囲(Σの上下に書く数)も省略してはいけません。怒られるのです。でも「アインシュタインの規約というのがあって、×××」とでも話してやれば数学が好きな子は「へえー」と思うでしょう。「オレの世界にはそんな記号はない。だからこの世にそういう記号はない」という感じの先生もいて、バカバカしい話です。「オレの世界にはない。だが外の世界にはあるのかも」とはならないんでしょうか……。どっちでもいいです。話題がそれました。
これを使うと式は簡潔になり、証明などの見通しもよくなります。いちいち分かりきったΣを書く必要もなく、気も楽です。さっきのC=ABでは、Cの i, j 成分は
と書けるのです。下付きのkと上付きのkで約分するような感じにkを消せます。
また例えばBがAの逆行列の場合、C=AB=E(Eは単位行列)なのでした。Eは対角成分が1、それ以外は0です。
のようになります。これを一気に表すうまい記号があります。
とするのです。記号
はクロネッカーのデルタと呼ばれ、i, j が等しければ1、そうでなければ0となる記号です。
もうひとつ。連立1次方程式を考えましょう。行列の形で書けば
成分を書くと
成分の等式に直すと
気が遠くなりそうです。しかしアインシュタインの規約によれば
と、これだけ。凄すぎです。3本セットの凄い式の1本目は、規約を適用した式でi = 1 と代入して得られます。他の式も同じ。また、左辺で上付きのjと下付きのjは約分されるみたいに思えば上側にiだけが残ります。これをbの肩に載せれば左辺の計算が完了します。憶えやすい!!
これは一般相対性理論の展開に必須です。テンソル解析の記号です。