いぬおさんのおもしろ数学実験室

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行列式の分かりやすい定義。偶順列、奇順列を使う。

 行列式とは何か。定義しましょう。この定義は次の本に載っていました。古いですが、素晴らしい本です。ぼくは最初、この本で勉強しました。

普通、テキストでよく見かけるのは置換を用いたもので、初学者はもうそれだけで圧倒されてしまいます。結局本質は同じですが、今回の定義は大変分かりやすいと思います。

 そもそもどうして行列式なんて出てきたのか……という話もありますが、始まりはn元1次連立方程式を解く上で必要だった、ということです。その辺の詳しい事情も載っています。2元の方程式を解くのに2次の行列の行列式が必要に、3元の方程式を解くのに3次ものが必要になるのです。発見的な方法で行列式の定義にたどり着いており、これだけでも読む価値があると思いました。でも今回は定義の説明にどとめます。

 さて、3次の行列式の定義です。

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とします。この行列Aに対し、Aの行列式(|A|と書く)を次で定義します。

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ただし、i j k は1、2、3の全ての順列を渡ります。つまり、このΣは(i, j, k)=(1, 2, 3), (2, 1, 3), ……として得られる6項の和なのです。

ε(i j k)は前回の記事で定義した符号関数です。 

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符号関数について簡単に説明すると…… ε(1 2 3) = 1、ε(2 1 3) = -1、ε(3 2 1) = -1、ε(3 1 2) = 1、……で、つまり偶順列に対しては1を、奇順列に対しては-1を対応させる関数です。奇順列、偶順列についてはこの記事を。 

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 定義の意味を説明しましょう。

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Σは1,2,3の全ての順列の和でした。(i, j, k) = (2, 1, 3)のときは行列の1行目からは2列目の要素を、2行目からは1列目の要素を、3行目からは3列目の要素を選び、これらをかけます。これにε(2 1 3)(=-1)をかけてまたΣの1つの項を得ます。

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(i, j, k) = (1, 2, 3)のときは行列の1行目からは1列目の要素を、2行目からは2列目の要素を、3行目からは3列目の要素を選び、これらをかけます。これにε(1 2 3)(=1)をかけてΣの1つの項が得られます。

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……要するに1行目から3つの要素のからどれか1つを選び、2行目からさっき選んだ列以外の要素を選び、3行目からは今まで選ばなかった列の要素を選んでかけ算し、順列の符号をかけて項をつくるわけです。全部で順列の総数、6個の項が得られます。4次の行列式でも5次の行列式でも同様です。

 

 これを理解した上で改めて置換を用いた定義を眺めると「ハハア、なるほど」となるかも知れません(ぼくはそうでした!!)。最初に書きましたが「なんでこんな定義が出てくるの?」については別で、今回は説明していません。とりあえず定義の意味を理解しましょう。それで余裕ができたらまた別の機会に勉強すればよいでしょう。