なかなか凄い本だと思いました。何人もの(将棋の)棋士に、羽生世代(羽生善治、佐藤康光、郷田真隆ら)、主に羽生9段についてどう思っているか、インタビューしています。羽生は95年に将棋界のタイトル全7冠(現在は8つある)を制覇しました。素人はなかなか正確にどの程度凄いのか理解できませんが、とにかくあり得ないことのようです。
ぼくたちは「棋士はとにかく強い!」と思っていますし、棋士としても弱みを見せることにためらいはあるはずです。実際に棋士同士が互いにどう考えているのか、外の人間にはあまり分かりません。特に強さについて、例えば「あの人には勝てない」、「対等だ」、……など考えてはいるのでしょうし、勝率が7割の人も6割の人もいるのでしょうが、この本に出てくるのは一流プロ、将棋ファンでなくても名前を知っているような棋士ばかりです。
その彼らが羽生9段について、何人かは(表現は色々ですが)当時、「ああ、羽生さんか、なかなか勝てない」のような印象を持っていたそうです。2人の間の勝ち星もある程度違いがあるのかも知れませんが、それよりぼくには(端的に言うと)弱気になっているように思えました。そうならざるを得ない状況だったのでしょう。例えば、谷川9段はタイトルを何度も獲った、最強の棋士の1人です。しかし一時期、羽生9段に対して苦手意識を持っていたそうです。自身の本でも書いています。そこではどう立ち直ったのかということにも触れていますが、とにかくそういう時期があったと。
特に森下9段と島9段のコメントが印象的でした。森下9段は、自分は若くして「将棋で勝たなければならない」という気持ちが崩れてしまったが彼はそれを持ち続けている、のように言っています。島9段は自身が竜王位に就く少し前、この先、彼には勝てなくなると思っていたそうです。
本当に厳しい世界なんだな、と思いました。アマチュアから見ればはるかに強いプロ同士でも「あいつは自分より強い」みたいな感覚はやはりあるのです。勝負の世界、純粋に1対1で勝った、負けたという結果が出る競技で、ごまかしが一切きかないからなのかも知れません。