いぬおさんのおもしろ数学実験室

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書籍『南海トラフ地震の真実』(小沢慧一2023東京新聞)紹介

最近また地震も多いですし、TVも盛んに「南海トラフ地震南海トラフ地震、……」と騒いでいます。しかしどうも南海トラフ地震(の確率)について、単純ではない話があるらしい。まだ2章までしか読んでいませんが、いや、これは凄い本です。どんな議論を経て「南海トラフ地震が危ない」という結論が出されたのか、書いてあります。

 

地震調査委員会は「南海トラフマグニチュード8~9クラスの地震の30年以内の発生確率が70~80%」と発表しています。南海トラフというのは静岡県から宮崎県沖の海底の複数のプレートの境界部分のこと(トラフというのは「盆」の意味)。この南海トラフが危険、ということになっているのですが、どうもそういう結論を出す議論が怪しいのです。南海トラフ地震の確率の計算には「時間予測モデル」という考え方を用いています。これは高知県室津港の海底の隆起量が西暦1700年以降の何回かの地震でどのくらいであったか、の記録のみに基づいたモデルです。しかもその記録がどの程度信頼できるのか、明確ではありません。そして、この時間予測モデルは南海トラフ地震についてだけ使われており、他の地域の計算には「単純モデル」を使っています。これは過去の地震の発生間隔の平均から計算する方法です。単純モデルを使うと南海トラフ地震の確率は20%になります。著者の小沢氏は情報公開請求制度を使って議事録を調べ、また当時の委員たちに取材を重ねて、なぜ南海トラフ地震にだけ時間予測モデルが使われるようになったのか、明らかにします。ここまで読んだところによると、「70~80%とした方が防災予算が取れる」と考える人たちがおり、その勢いに押されてしまった、というのが理由のひとつです。

 

現代の科学で地震の予知はできません。どこでどの程度の大きさの地震がいつ起こるのか、全く分かりません。実際、東日本大震災だって能登半島地震だって誰も(だーれも)分からなかったでしょう? どこで大地震が起こるか分からない。そういうつもりで地震に備える、というのが正しい姿勢だと思います。この本には、1979年以降10人以上の死者を出した地震が「危険」とされている場所以外でばかり起こっている、という表も載っています。TVでハザードマップみたいなのが映るたびにこれを思い出します。